遠い存在
1匹のヤモリが目の前を走り去ってゆく。
実にすばしっこい。
考えてみれば当たり前か。
逃げる。捕食する。
生きていく上で、素早くなければ生き残れない。
人間はスーパーに並んでいる”逃げない餌”を買い物かごに入れるだけであるから、べつに素早い動きは必要ない。
死にものぐるいで逃げる必要なんて、生きている内に何度あるだろうか。
― 死が身近にあるんだな ―
自然界の生き物全てに、死という概念があるのかわからない。
わからないが、なんとなくそういうものを身近に感じながら生きているのだろう。
人間のように食事を味わうとか、ロケーションを楽しむようなことは ― おそらく無いと思う。
本当に人間というものは死という概念が、どこか遠くの夢物語の中にでもあるように考えていて、誰にでも起こることとは考えていない。
最近ではその言葉を発するのさえタブー視されていて、文字にすれば規制がかかる世の中になってしまった。
(だから文字に変換するのにも抵抗がある)
人間も自然から発生した生き物である以上、死という概念の外側に居られるわけではない。
それでも死という言葉を使うことにさえ、罪悪感が生じるのはなんなのだろうか。